東京高等裁判所 昭和58年(ネ)291号・昭58年(ネ)292号 判決
遺言には厳格な要式性が要求され(民法九六〇条)、自筆証書によって遺言をしようとする者は、その全文、日付及び氏名を自書し、押印しなければならないものであるところ(同法九六八条一項)、弁論の全趣旨により前示請求原因六記載にかかる豊三の遺言書(以下「本件遺言書」という。)に該当するものと認められる≪証拠≫には、その末尾にタイプ印書された不動産目録(第一ないし第三)が添付されているが、同遺言書は、右目録と対比することにより、はじめて控訴人孝雄に相続させるべき目的物を特定し得るものであることがその記載自体から明らかであるうえ、≪証拠≫によれば、右目録は、司法書士である同人がその事務員に命じてタイプ印書させたものであることが認められる。してみると、タイプ印書された右不動産目録は、本件遺言書中の最も重要な部分を構成し、しかも、それは遺言者自身がタイプ印書したものでもないのであるから、右遺言書は全文の自書を要求する民法九六八条一項の要件を充足しないことが明らかであり、仮に同遺言書が遺言者である豊三の意思に基づき作成され、かつ、その記載が全体として同人の真意を表現するものであるとしても、そのことのゆえに右全文自書の要件が充足されていると解することはとうてい許されないものというべきである。したがって、本件遺言書は自筆証書遺言としての効力を生ずるに由ないものといわざるを得ない。
(中島 奥平 尾方)